丹沢イワナの顔(沢による種の形態の違い)

丹沢イワナの顔(沢による種の形態の違い)

かつて、1993年6月発行の白石勝彦氏による、「イワナの顔」にかつて感銘を受けたボクではあるのだけれど、方や全国区における論証とはいかないまでも丹沢山塊における渓流に生息するイワナの形骸的な特徴の違いについて同じような興味を覚えていたので、今回は現時点での考察など記録しておきたいと思った次第である。

丹沢山塊におけるイワナの顔

白石氏の著書の冒頭に予言的なキャッチフレーズとしてイワナ在来種の「最後の記録」とされてはいたが、まさに丹沢を流れる流域においては30年近くたった今になってみると正に混沌としてしまっているようである。

まず、これら考えられる要因としては漁協や有志による放流事業の結果が念頭に置かれるのだが。

それにともなったイワナという魚類の生理的な環境順応、とくに生態学的に見れば水温・水質などの環境による形骸的な特徴の変化と言ったところも考えられるが、はたしてそれだけであろうか?

しかしながら、長いばかりでそれほどのスキルも乏しいボクであっても丹沢各河川における上流部のイワナの形骸的な特徴について違和感を覚えざるを言えないところなのだ。

現在、丹沢山塊を源とする各河川の最上流部で釣れるワイルドなイワナはかつての放流によるものと思っていただいて間違いはない。

時にアメマスを思わすものやヤマト系のイワナに酷似したものなど形骸的には多様ではあるのだけれど、これらであってもニッコウ系のイワナであることも間違いはないというところだろうと思う。

また、以前にポストした「丹沢の在来イワナを探る」でも取り上げている丹沢産イワナの在来種の存在についてだが、不確かなれど可能性は残されている。

具体的には道志川水系神ノ川上流域。ややフィールドは外れるが道志川山塊の秋山川流域を北丹沢に含めるならば、その支流である金山川や王ノ入川などを含めて、特に最近までは山梨県側の道志川最上流にヤマト系イワナの存在が知られていたが、この道志川最上流ですら可能性も今は低いものとなっている。

環境の変化や釣り人の釣獲圧も否定はできないところではあるのだが、放流イワナ(ほぼニッコウ系)との混血化が消滅の一因として大きいのではなかろうか?

特に秋山川水系においては放流によるところの混血化で消滅したという認識が一般的な見解であるようである。

放流事業と混血によるイワナ在来種の消滅

面白い話で、諸説様々ではあるが最近の研究では、人類についてもネアンデルタール人は絶滅したのではなく我々現生人類の祖先に混血する形で消滅していったのだという。

短時間で世代の変わる魚類に当てはめれば、あっという間に生息勢力は塗り替えられてしまうわけである。

いまだに釣りというレジャーのために生産性の高いニッコウ系のイワナが放流され続けている中で、酒匂川漁協などはイワナ放流を自重されていると聞く。

むろん、放流魚を否定しているわけではなく、ボクを含めて何系のイワナであろうと釣り場の魚影が少しでも多いのは喜ばしい限りではあるのだが 。

記録されているだけでも1950年代以降に養殖がしやすいニッコウイワナの放流が一般的になる以前には、アメマス系やヤマトイワナ系の放流も行われているようで、裏付けるかの如く、学術的調査によって県の調査での滋賀県姉川水系由来のヤマトイワナのDNAを持ったイワナの存在なども確認されている。

もし、ヤマトイワナと疑いようもない形骸的な特徴を持つ個体が生息する流れを確認できたとしても在来のそれとは判断できかねるといったことである。

また、各漁協による放流に加え、愛渓連など組織的な放流、昭和期の釣りブーム当時に雑誌社で企画された放流など大規模なものから個人による記録にないゲリラ放流などイワナの放流は現在まで繰り返されているのでこの点は理解しておかねばならないだろう。

○○型イワナとする解釈

神奈川県による学術的な見解や解釈としては、丹沢山塊の渓に見られるこれらのイワナは「○○型イワナ」と明記されており、ボクもこれが正しい解釈で従わなくてはならない結論ではないかと思う。

例えば、ある沢で釣れたものが赤色斑点やパーマークなどなく白点の大きさが目立つ特徴が顕著であればアメマス型のイワナであり、白点が不明瞭で小さく赤色斑点が目立つものはヤマトイワナ型といった具合に。

それぞれのイワナの種類については、「イワナの種類」として以前にポストしているのでそちらを参考にされてください。

ところで、同じ河川やポイントから様々な特徴を持ったイワナが釣れてくるあたりがアングラーとしては釈然としないところではあるのだが、それだけイワナは形骸的特徴が不安定な生物ということなのだろうか?

見た目では明らかにヤマトイワナと信じたい形骸的な特徴を持つイワナが釣れても、同じポイントからニッコウイワナと疑うレベルではないほどにそのままの個体が釣れてくるあたりが釈然としない事実がある。

しばしば、丹沢を流れる河川で変わった形骸的な特徴を持つイワナが釣れるということで、専門機関に持ち込み判断をゆだねると「ニッコウ系のイワナであった」という結論に達したという話は多い。

あらためて、イワナという魚については不思議な生き物だと実感させられているところなのである。

概ねはニッコウイワナ系と認められるものの、あるものはアメマスに近く、あるものはヤマトイワナに近いといった疑いを持ちたくなる形骸的な特徴を持つ個体が丹沢の渓には多く、もはやカオス(混沌)といった丹沢イワナの現状である。

当ブログでもしばしばテーマとしてきた丹沢の地イワナ(在来種イワナ)は幻なのか?

いずれにしても丹沢山塊の各河川に生息する個体を説明するにあたり、「あの沢のイワナは○○型であった。」、あるいは「○○型が多かった。」とするのが適当で、もしそれらしき個体に出会えても在来種を期待して「ヤマトイワナの生息する沢」などとは軽々しくも言えそうにはないとボクなりの結論に達してはいるのだがいかがだろうか?

関連リンク

ヤマトイワナ ? 神奈川県レッドデータブック

[PDF]渓流魚の DNA 解析調査 Genetic Analysis of Freshwater