東丹沢中津川上流のイワナと歴史を記す

北(裏)丹沢に位置する道志川や相模川上流域である桂川支流などは別として、昨今では東丹沢の中津川水系でもごく普通にイワナが釣れることが知られています。
タイトルは大げさになってしまいましたが、当ブログでは、相模川水系の釣り場や自然がテーマの記事を多く投稿していることもあり、このテーマも外せないところです^^
おそらくは放流事業の成果や、残念ながらかつての釣りブームも影をひそめ、釣り人が根絶やしにしてしまうといったことがなくなったことも原因と思われる。
あるいは、昨今のゲームフィッシング意識の向上で、C&R(キャッチ・アンド・リリース)などマナーの向上も大きいのかもしれない。

俗に「イワナの川」とか、「ヤマメの川」などという言葉が釣り人の間では使われるのだけれど、少なくとも最近の首都圏近くの流れでは「死語」に近くなってきているわけですが、中津川もそれに漏れないわけです。
厳密にいえば、こういった言葉は沢に適用されはするものの、ほとんどが混生しているようである。
管理釣り場の影響や有志の放流などで魚種が増え、それはそれでよいかもしれないが、実際のところ「イワナ」とひとくくりにして呼ぶことにすると、どこで釣れてもおかしくはない状況にもあるのだ。
それでは本来、相模川の支流である中津川水系のどこにイワナが生息していたのだろうか。
具体的な分布までは言及されてはいないものの、大正時代の関東大震災以前には中津川もイワナが生息していたと昭和32年(1957)神奈川県水産指導所「相模川水系に於ける魚類の生息分布の状況とその季節的消長に関する調査」に当時の古老からの聞き取りとしたものがある。
「 大震災以前には最上流域にイワナが生息していたという 」と、簡単な記述があるのでネイティブ(在来原種)として生息していた可能性は大きいのか。
残念ながら、同書がボクの知る限り、中津川イワナの消息を知る唯一ともいえる文献なわけで、現在でもこの古老の話を頼るほかはない。
もちろん、当時一般の人々が学術的な種の判断などの知識があるはずもなく、それがニッコウイワナ系であったかヤマトイワナ系であったかなど大きく不明瞭である。
中津川にネイティブ(原種)イワナは存在するのだろうか
この震災で、札掛付近では山津波が起こり、本谷川及び布川に生息していたイワナ・ヤマメはことごとく全滅したという。
大山北面に流れる唐沢川のヤマメはわずかに残ったそうだが、イワナはもともと生息していなかったと言われている。
また、不思議なことに丹沢山北面を源流とする中津川の一大支流早戸川についてもイワナに関しての文献などは見当たらない。
イワナが生息されたとする道志川と中津川本谷域に挟まれたように位置して流れる早戸川に生息していなかったと考えるのは少々、不自然ではある。
しかも、じっさいに近隣の津久井地区(鳥屋)住民や漁業組合員からの聞き取りでも、イワナが生息していたという話は誰からも聞いたことがないという結果が出ているようだ。
ボクが思うにイワナも氷河期由来の「源流性生物」であるため、桂川水系よりも南に位置する中津川水系では気温にともなう水温の変化により、すでに生息条件が尖鋭的であったのではなかろうか。
いずれにせよ、もしもヒレピンの美しいものが釣れたとしても、現在生息する中津川イワナは放流などを由来とし、世代を重ねたワイルド(野生化)であって、ほんとうの意味のネイティブ(原種)である可能性は極めて少ないと言えそうなのだ。
丹沢の在来イワナはヤマトイワナ?
この記事にご興味を持たれた方ならご存知の通り、丹沢山塊の渓に生息するイワナの多くはニッコウイワナである。
しかしながら、わずかではあるのだがヤマトイワナ S.leucomaenis japonicus Oshima の生息が確認されている。

学術的な調査でも水域は丹沢山塊の相模川、酒匂川の渓流域に数箇所存在するそうだ。
丹沢山塊、相模川水系での確実なヤマトイワナの分布は、山梨県側の道志川上流で、ほかに可能性のある水域として神ノ川、本谷川、塩水川、境沢、藤熊川があげられており、酒匂川水系には分布はないというが一般的には有力な説となっている。
いずれにしてもニッコウ系のイワナは昭和50年代以降から放流され続けてきたイワナの系統で、在来種との判断になりそうである。
ニッコウ系のイワナは、あくまでもワイルド(野生種)であってもネイティブ(在来種)ではない可能性が強い。
それでは分布が確実視されている道志川上流域の例をとって、ヤマトイワナが在来といえるのかというと、現段階では“推定されている”といったようにいささかあいまいではあるが、個人的には間違いはなさそうに思える。
富士川のヤマトイワナ
ひとつの目安として、中津川及び酒匂川水系でヤマトイワナに遭遇した場合、それは在来のイワナである可能性が高いと言えまいか。
余談になるが、このようにあいまいな点からも山梨県側の道志川を除いて、神奈川県内でヤマトイワナの生息が確認されている水域は、丹沢山塊の相模川、酒匂川の渓流域に数箇所存在すると言われているが、在来個体群の特定には至っていないのが現実のようである。
しかしながら、県の学術的な調査でもヤマトイワナの捕獲後にDNAレベルから、「滋賀県姉川水系由来のヤマトイワナ」であった旨が報告されている。
これは、丹沢のどこかでヤマトイワナが釣れたとしても、古い時代の放流を由来とした個体であることもあるのでいちがいにネイティブとは言い難いケースも出てきている。
「イワナはどれもイワナ」と割り切り、そう深く考える必要も我々末端の釣り師(アングラー)にはないのかもしれないが、この辺りにこだわりながら竿を出すのも一興ではないだろうか。
ただし、現状では県のレッドデーターブック(絶滅危惧種)にヤマトイワナが「絶滅危惧ⅠA類」として記載されていることも覚えておいていただきたい。
関連リンク
-
前の記事
丹沢ヤマメと七不思議 2015.06.26
-
次の記事
玄倉川 2016.07.03